はじめに
あなたは班田収授(はんでんしゅうじゅ)をしっていますか?
中央(朝廷)が戸籍に登録された人民に、口分田(くぶんでん)という田地を配給する制度です。
ここで「中央(朝廷)ってなんて気前が良いんだろう」と思ってはいけません。
ここには中央(朝廷)のある思惑(おもわく)があったのです。
ここでは班田収授と律令国家の税制について説明します。
班田収授について
ここでは人民に田地を支給する班田収授について説明します。
班田収授は人民の最低限の生活保障のため
中央(朝廷)は、6年に1度作られる戸籍を基準にして、生きている人民たちに口分田(くぶんでん)という田地を支給しました。
新たに人民に口分田を支給することを班田(はんでん)といい、人民が亡くなったら口分田を取り上げることを収受(しゅうじゅ)といいます。
あわせて班田収授(はんでんしゅうじゅ)です。
ではなぜ中央(朝廷)が班田収受を行ったかというと、律令国家の重税を負担する人民の最低限の生活を保証するためです。
もしも人民に口分田を与えないままで重税を課したら、人民は死ぬか土地から逃亡したりして、徴税ができなくなってしまいます。
よって人民に口分田を与えることで、最低限の生活を保証したわけです。
口分田が支給される基準について
戸籍に登録された6歳以上の人民に口分田が支給されます。
その面積は、男性が2段で、女性はその3分の2となります。
2段とは約50m×50mくらいの面積といわれています。
くわしくは、このあとの条里制(じょうりせい)のところで説明します。
ここでポイントとなるのは、口分田が支給されるのは、6歳になった最初の班田の際におこなわれるということです。
たとえば班田おこなわれた時に5歳だった場合は、次の班田がある6年後の11歳になるまで口分田が支給されないということです。
つまり口分田の支給は必ず6歳であるとは限らないわけです。
なぜならば、6年に1回の戸籍の作成がおこなわれた際に新たな班田がおこなわれるからです。
こうして人民に配給される口分田は、6年に1回の戸籍作成の際に、支給する口分田の面積を計算し直されて、郷戸単位でまとめて支給されました。
その一方で次の班田までの6年間に亡くなった人民がいたら、その人の口分田は取り上げられる、つまり収受されるわけです。
日本における口分田は熟田
さらに日本における班田収授の特徴として、支給される口分田が熟田(じゅくでん)であるということです。
熟田とは、耕すだけで農業ができるしっかりと整備された田地のことです。
これが中国の班田収授との違いです。
中国では整備された田地ではなく、土地のみを支給しているので、石ころだらけであったり整備作業から行う必要がありました。
その点、日本では整備された熟田が支給されたわけです。
田地の広さである条里制とは
このように口分田の面積は厳密に決まっていたので、ほとんどの田地は条里制(じょうりせい)という四角形に設計されていました。
条里制について説明すると、
「1町=109m」を基本とし、
・1町四方の正方形=1坪
・1坪を南北に6つ並べた状態=1条
・1坪を東西に6つ並べた状態を1里
という単位となりました。
なお地形によっては、上の図のような正方形でなく長方形やひし形になる場合がありましたが、面積は同じでなるようにしました。
とにかく四角形であれば、正確な面積は計算できるわけです。
さらには、1坪の10分の1(つまり0.1坪)を1段
としました。
この2個分、つまり2段=0.2坪が6歳以上の男性にあたえられるわけです。
くわしくは上の図を見てください。
なお1坪の10等分のやりかたは、上図のように短冊のように分けた半折型(はんせつがた)とか、
細長く分けた長地型(ながちがた)があります。
律令国家の税について
ここでは重税である律令国家の税制について説明します。
律令国家の税の種類
さきほども説明しましたが、律令国家の税の特徴は、人頭税(庸・調)が中心で重税であることが特徴です。
律令国家の税ですが、
- 租(そ)→口分田の収穫の3%を地方に納める。
- 庸(よう)→都城で10日間の労役を行うか、代用の布などを中央(朝廷)に納める。
- 調(ちょう)→布や地方の特産物を中央(朝廷)に納める。
- 運脚(うんきゃく)→庸・調を中央(朝廷)まで運ぶ労役。
- 雑徭(ぞうよう)→地方で労役をおこなう。
- 兵役(へいえき)→一定期間兵士となる。
があります。
このなかで最も重要な税は、中央(朝廷)に納める税である庸と調、そしてそれらを運ぶ運脚となります。
なぜならば、律令国家は中央集権国家であるからです。
とくに運脚は負担者が自分でおこない、その間の食料は自弁(じべん)、つまり自分で食料を確保する必要がありました。
そのため中央(朝廷)に向かう途中で食料を確保できずに餓死する人民も出て、とても厳しい税でした。
ちなみに律令国家の税は人頭税中心と説明しましたが、基本は21〜60歳までの成人男性である正丁(せいてい)が租庸調すべてを負担することになります。
なお17歳から20歳までの少丁(しょうてい)や、61歳から65歳までの老丁(ろうてい)は負担が少し軽くなります。
そして全年齢の女性は、租のみというとても軽い税でした。
土地税である租について
律令国家の税のなかで租だけは、口分田にかかる土地税です。
そして集められた租は、地方の郡家(ぐうけ)の倉庫である正倉(しょうそう)で保管されました。
(郡家についてはこちらの記事をご覧ください)
飢饉対策用に保管されたのではないかいわれています。
つぎに租に関わるものとして、出挙(すいこ)といわれる種籾(たねもみ)の貸し出し制度がありました。
出挙には民間でおこなった私出挙(しすいこ)もありましたが、ここでは地方の役人(官人)、つまり国が庶民に貸し出す公出挙(くすいこ)で説明します。
公出挙は、国が人民へ種籾を貸し出して、収穫の際に利息をつけて返還させました。
最初は地元の人民救済のためにおこなわれましたが、のちになると必要な無くとも強制的に貸し出しをおこなう税の要素が強くなりました。
そして公出挙による利息が、国府などの運営費用として使用するようになります。
律令国家の税の問題点
ではあなたに質問です。
運脚など、もしかしたら死ぬかもしれない重税だらけの生活だったら、あなたはどうしますか?
その土地から逃げます。逃げて誰も知らない別の土地でひっそりと暮らします。
迷いがありませんね。でも誰でもそうしますよね。死ぬかもしれないんですもの。
しかしそれが律令国家の税の問題点です。
一応人民に班田収授という最低限の生活を保証したわけですが、それより税の負担が比べ物にならないくらい重かったわけです。
ここで死ぬかもしれない重税ならば、だれでも逃げたくなるのは当然です。
そして律令国家の税のほとんどが、人間単位にかける人頭税である以上、税を納めるべき人間が逃げていなくなったら税をとることができなくなります。
さらに律令国家の税は女性のほうが軽くなるシステムのため、できるだけ税負担を軽くするために、戸籍の性別を「男性→女性」へと偽るようになります。
つまり郷戸の代表である戸長(こちょう)が、郷戸のメンバーの性別を偽って国に報告するようになったのです。
(戸籍の作成についてはこちらの記事をご覧ください)
しだいに戸籍自体が偽りの多い、見せかけのものとなっていったわけです。
まとめ
- 人民に口分田を配る班田収授がおこなわれたのは、最低限の人民の生活を保証するため。
- 口分田の支給は戸籍に登録された6歳以上の人民であり、戸籍が作成される6年に1回のタイミングでおこなった。
- 律令国家の税は、人頭税で重税であることが特徴。
- とくに中央(朝廷)におさめる庸・調が重視された。
- さらに運脚は中央(朝廷)に庸・調を運ぶ労役だが、自弁であるため、なかには餓死する人もいた。
- 律令国家の税は女性の負担が軽いため、のちに戸籍の性別を偽ることで税負担を軽くしようとした。
コメント